zokkon__U

音をたてて沼に落ちたド新規の日常(妄想)

辰巳先輩④

2学期

私は夏休みとは別人のような日々を過ごしていた。


「○○ちゃん、これは?」

「それは、奥に立て掛けといて!」



「文化委員さん、張り切ってますね。」

「まあね。笑」


そんなことを同じ文化委員の田中くんと言い合う。

文化祭まであと少し。



「3年のどっかのクラス、メイド喫茶とイケメン喫茶だってー!かっこいい先輩のいるクラスだったらいいな~!」


はいはいはい、知ってます。だって私文化委員だもの。
ちゃんとかっこいい先輩いるクラスですよーなんてったって、あの辰巳先輩がいるんですから!

「なんて顔してるの…笑」

そんなことを言われてしまうくらい内心ニヤニヤしてた私。(思いっきり顔に出てたみたいだけど。)

そんなこと言えるくらい辰巳先輩のことは整理できてきたはず、

なのに

こんな噂話ひとつで私は揺らぐ。



「ねぇ聞いた?音楽の先生、辞めちゃうんだって。」


は…?

ダメだダメだ。今の私には関係のない話。


「理由はわかんないけど、辞めさせられるのかな~?」


「…ちゃん!○○ちゃん!!」

「っ!ごめんごめん!」

「大丈夫?疲れてるんじゃない?」

「…まあそこそこにはね…」

「でも休ませてる暇ないからね。」

「田中くん、そこは女子なんだから休んでな。だから。
だから、彼女いないんだよ~!」

「今それ関係なくない!?」






「へぇーそんなことがあったんだ…」

「うん。あっ、ただいま…」



「せーの…!」


「「おつかれぃ~!!」」


「は!?なになに!?悠太くんまで!?」


「…もしかして誕生日祝い?」

そう言った孝良に、そうでーす!ともうすでに酔っているような声の悠太くんが答えた。


孝良の誕生日と私の誕生日は近い。1週間くらいしか変わらない。
(ちなみにうちの兄と悠太くんも1ヶ月くらいしか変わらない)



「おかしいと思ったんだよ!一緒に来いだなんてさ。」

そうだ、今日は何故か孝良に一緒に帰らなきゃいけないって言われて。



「俺は当日ちゃんと来てあげるからね~」

「…え!ありがとう、悠太くん!」


「お、俺だって、出張じゃなかったら誰よりも祝えたのに…!」


兄と悠太くんが言い合ってる。まあこの二人は仲がいい。ケンカしてるのを知らないくらい。


「めっずらしー、○○が食べ物を興味ないなんて。」

「うっさい、孝良!他に考えることくらいあるんですー!私、忙しいんですー!!」


「それはそれは、文化委員様。」


「あんた絶対文化委員バカにしてるでしょ!めっちゃ忙しいんだからね!」



「またまた~痴話喧嘩しちゃって~♪見せつけてくれるよな~」

「「は!?」」

完全に呑むスイッチが入った悠太くんはなかなかめんどくさい。
だって、こんな訳わからないことまで言い出すんだから。


「…え!?ふたりってそういうことなの!?な、なんで今まで言ってくれなかったの!?」

「だから違うから」

「完全に誤解です」

それでも、完全に誤解してるお兄に言い聞かせようと声をあげると


「「付き合ってないから!!」」


見事に孝良の声と被る。

孝良と顔を見合わす。

こうも揃うと、もうどうにもできない。


「見せつけてくれるよな~ハッハッハッー!」

「嘘だろ、○○…」





「最悪だ…」

「大丈夫だって、兄ちゃん明日にはなんにも覚えてないから。」

「いや、あんたんとこはいいかもだけど、うちのはどうすんのよ!」


悠太くんが呑め呑め~って勧めるのに、全く呑む気も起こってないお兄を見る。


「まあ、なんとかなるっしょ!」


そうだった…こいつは、悠太くん同様ものすごいお気楽なやつだった…




「だって、そう思わなきゃ前に進めないじゃん?」


「え?」

声色が変わった気がして思わず顔をあげる。

そしたら、さっきとは表情の違う孝良がいて、ちょっと緊張する。

こんな顔されるのは、いつだっていい話の時じゃないから。

孝良はたぶん全部知っている。私が辰巳先輩が好きなことも、辰巳先輩に好きな人がいることも。

その好きな人が絶対手の届かない人だってことも。


「…らしくねぇな俺!」

「うん。」







「○○先生、辞めるんだってさ。」





「うん…。」





はっはっ!マツバカなんじゃねーの!!

悠太くんのそんな笑い声もどうでもいいくらい、胸に刺さった。