zokkon__U

音をたてて沼に落ちたド新規の日常(妄想)

辰巳先輩②

「ただいま~

ってなんで孝良がいるの!?」


我が家のリビングのソファでくつろいでいるのは、この家の住民ではない。

「遅いよー。
もうごはん出来てるんだからね!」


お隣かつ同級生の孝良。


「…」

「無視かよー!!
あっ、今日兄ちゃんも来るよ。」

「え!?ほんと!?悠太くん来るの!?」


「…そんなに兄ちゃんがいいの?」

その性格に似合わない綺麗な顔を怪訝な顔にして言う孝良。

兄ちゃんというのが、これまた綺麗な顔で調子者で。
見た目も中身もそっくりすぎる兄弟。

でも悠太くんは好き。
孝良はウザいけど。



「ただいまー」
「おじゃましまーす!」

噂をすれば、悠太くんが兄と一緒に帰ってきた。

おかえり、お兄、悠太くん♪なんて行っていつもしないのにやってしまう。


「そう言えばさ、お前辰巳先輩と知り合いなの?」

「え!?!?」

「驚きすぎでしょ、○○ちゃん。コントかと思ったわ。笑」

悠太くんに笑われる。

いや、驚くでしょ。むしろこれくらいで済んでよかった方だ。

「な、なんて私のこと。」

「気になる~??」


「う…!
やっぱいい、孝良ウザいから。」


なんだよ、聞けよっていう孝良無視して食事を続ける。

でも気になって気になって、あとで聞いとけばよかったって後悔した。



「お前さ、辰巳先輩のこと好きなの?」

ご飯のあと、リビングでふたりでゲームしてたら急に孝良がもう1回ぶっ込んできた。

ちなみにうちの兄と孝良の兄(悠太くん)は、ふたりでまだまだ飲んでる。
ふたりとも引くほど、酒が強い。
恐らく、孝良も私もその遺伝子受け継いでるであろう。

驚きすぎて、画面の中の私のキャラの動きが止まる。


「き、急に、な、何を」

「…ふーん。」



「好きなのはわかってるけど、あんまりあの人に深入りしない方がいいと思うけど。」


は?
なんなの。


孝良は辰巳先輩の何を知ってるの…?


「なんであんたにそんなこと」

「△△先輩って知ってる?サッカー部のマネさんの。

あの人が○○のこと目つけてる。辰巳先輩にちょっと相手にされただけで調子乗ってるって。

あの人、やることえぐいよ。
去年入ったマネの子、ほとんど辞めさしたもん。」

辰巳先輩ともろのことで話したんだろ?それをもろに言ってるのを、聞いてたみたいでさ。

孝良はそう言った。辰巳先輩、そんなこと覚えていてくれたんだ。


別にいいじゃん、私が勝手に好きなだけ。
そう。辰巳先輩は別に私のことなんて…
なんとも思ってないんだから。
自分で言ったくせに、へこむ。




「あの人は俺らみたいな平和に過ごしたいやつが関わる人じゃないよ。」

それにこの頃は孝良が言っていた本当のことなんて全く見えてなかった。



明日は終業式、今日はもう授業はなくてクラス対向球技大会。

私はバスケの補欠だったんだけど、昨日の予選で負けたからもうあとは見るのに専念できる。

うちのクラスで残ってるのは男子サッカーのみ。


「○○、グラウンド行くよー」

「待って、日焼け止め塗ってない!」



コートに行くと、もう試合が始まろうとしてた。

ほとんど空いてなくて、端っこの方になる。

「あっ、孝良じゃん。」

サッカー部の仕事で、審判している孝良がいた。

そんなに忙しくなさそうだったから、3人で話してた。

「これ、どっちが優勢なの?」

「う~ん、相手もサッカー部いるけど、」

「もろって、サッカーうまいの?」

「あいつめっちゃ上手いよ、昔どっかのユース入ってたみたいだし。」


そんなこんなで前半終了。0-0のまま、後半へ。

「私、ジュース買ってくる。」

「うん、後半始まるまでに帰っておいでね。」

「ちょっと待って!俺のもおねがい!」

いつもなら、えーって流すけど、今日は暑いなか頑張ってるんだし、パシられてあげよう。

「いいよ。ただし、奢らないからね。」



北校舎と南校舎の間の自販機。みんな、グラウンドか体育館にいるから、全然人がいない。

よかった…ここはまだカルピスのビックサイズ残ってたよ!

で、あとは孝良のと。

ガコンと落ちて、取り出すところから少し冷気が出ててそれすらも涼しくて少し涼む。


すると、足音がしてきて、とっさに隠れる。あ


徐々に大きくなっていった足音は、徐々に小さくなっていって、なんだ自販機に用じゃなかったんだ。と思って、その人の後ろ姿を見た。


「わ、辰巳先輩だ…」

でもそっちの校舎って教室がない方だけど、なにしに行くのだろう…


辰巳先輩のことなら何でも知りたい。

そんな欲望に勝てず、その姿を追いかけた。


階段をたったっと上がっていく先輩。私も気づかれないようにあとからゆっくり追いかける。

私が2階まで上がったところで、階段を上る足音が止んだ。
かわりに平面を歩く足音。

3階…?
3階には、特別教室しかないけど…?


私が3階に行くと、辰巳先輩がちょうど教室に入るとこだった。


あそこって音楽室だよね…??

なんでこんなときに…??


ここでやめとけばよかったのに…。
ひょこひょこ見に行った私がバカだった。


扉の真横で足を止める。中からは声が聞こえてくる。


「…先生。○○先生。」

「なあに、辰巳くん。」


「約束。俺との約束、本当に守ってくれるんですよね?
…優勝したら付き合ってくれるっていう。」




嫌な予感がなかったわけではない。でもどうしても知りたかった。


途端にふらっとして持っていたカルピスの缶を落としてしまう。

「…ねぇ辰巳くん、」

ガチャン。


逃げなきゃ。
落としたカルピスなんかどうでもよくて、無理やり足を動かす。

階段をかけ降りたとき、扉が開いた音がした。

…よかった。ひとまずはバレなかった。


ひとりになれる場所で三角座りして、膝を抱えるとスカートにこぼれた水滴を見つけた。持っていたタオルで拭くんだけど、次から次へこぼれてくる。

「た、つみっ、せんっぱい…!」


「好き…好き、なんですっ」


今さっき衝撃的なシーンに立ち会ったのに、どうしようもなく好きだ。


嫌いになんて、興味がなくなるなんて、そんなの出来るわけない。