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音をたてて沼に落ちたド新規の日常(妄想)

番外編~辰巳くん②

その日帰ると亮子の家の前で、珍しい人にあった。

「屋良くん!?」

「おう!雄大、久しぶりだな。ちょっと寄ってけよ」

その日は昨日の深夜やってたヨーロッパプレミアリーグの予選を一刻も早く帰って見たかったのだけど、屋良くんの誘いだ…断るわけにはいかない…

「あっ…はい。」

なるべく顔には出さないようにだけど心の中ではしぶしぶお邪魔することにした。

そう言えば亮子の家にあがるのは久々だ。

「あぁ、今日は親父とお袋の結婚記念日でさ、二人で出掛けてるよ。だから俺がこっち来たってわけ。」

屋良くんは中学卒業と共に家を出て、今は独り暮らしをしている。

「大事な妹、一人にしておけないからなー!」

「大丈夫だよ、これくらい。」

そこへ制服から着替えた亮子が降りてきた。

正直、意外と地味な部屋着で驚いた。少し懐かしさを感じる感じ。

「ともくんは過保護すぎるんだよ。」

屋良くんが兄貴と言われ寝込んだ2日のあと、亮子は「ともくん」と呼ぶことにした。あのときの屋良くんの顔は考えられないほど輝いていた。


「ところで雄大、今日は大事な話があるんだよ。」

「えっ?なんですか…??」

屋良くんの部屋にまで連れていかれびくびくしてた俺を迎えたのは

「亮子の誕生日、何あげたらいいと思う??」

そんな言葉だった。


はぁ!?あの二中伝説の、確か4代目トップの屋良くんがたかが妹の誕生日プレゼントでこんなに悩むなんて…はっきり言って情けない。

「そんな話しないからわからないですね…」

めんどくさそうなので、関わらない方向に持っていきたいのに…



「おい、雄大。俺がなんのためにお前呼んだかわからないわけないよな。」


こえーよ、伝説のトップのこの有無を言わさない感じ、そこらのかつあげより怖いわ。

「は、はい。」

ということで、俺は亮子の欲しいものをそれとなーく聞かされるはめになった。

階段を降りて、玄関で靴を履いてると、
「帰るんだ。」って亮子が。

「おう、また明日な。」
おっと、善は急げだよな。

「なぁ、亮子。」

「何?」

「欲しいものある?」


「もうすぐ誕生日じゃん?何もらいたいのかな~って。」

それとなーく聞くのはもう諦めた。絶対バレるんだから。

「急に言われても思い浮かばないよな、まあ考え」


「付き合ってよ。」


「へっ?」

「付き合ってよ、雄くん」


えっ?ちょっと待ってよ、頭ん中混乱しすぎてよくわからないんだけど!
亮子の欲しいものが、付き合うこと?相手は…俺!?
何!?付き合うってやっぱりあーいうことなの??男と女が付き合うってつまり…って

「えぇ!?」

でも付き合うって買い物に付き合ってとかもあるよな!うん、てかそっちだ!そっちしかあり得ない!!

「付き合うって…その日1日亮子の行きたいとこついてこいってこと…だよな…??」

亮子の顔色うかがいながら言ったのに、亮子は下向いてしまってわからない。


「…そうだよ。
誕生日ぼっちなんて考えられないから。その日は私のわがまま聞いてもらうから。覚悟してて。」


「だっだよな!焦ったわ~!!
…じゃあまたな!お邪魔しました!」
逃げるようにドアを閉めた。


「雄くんのバカ。」

亮子が呟いた声は聞こえなかった。




「辰巳、日曜日1日早いけど福ちゃんの誕生日しようと思うんだ。何時にする?」

そうマツに言われ、
おう!それなら10時半
といいかけたところで思い出した。

「ごめん!!俺、その日行けねーわ。」

同時に顔を向けるマツと福ちゃん。
スマホをいじっていたこっしーも顔をあげた。

どうしようかなっと思ったけど、みんなに嘘をつきたくなかったし正直に言おうと思った。

「実はさ、その日亮子の誕生日なんだよね。亮子のしてほしいこと叶えてあげる約束してて…ほんとごめんね!福ちゃん…」

恐る恐る顔をあげてみんなの様子をうかがう。

「えっ、別に先約あったんだったらしょうがないじゃん。」

いつもよりあっさりしてる福ちゃんにびっくりする。

「あっそう…??」


「それよりさ、辰巳の彼女の叶えてほしいことってなんなの??」

相変わらず福ちゃんは辰巳の彼女という言い方から変える気はないらしい。

「あぁ。付き合ってって言われた。」

「「!!」」

「だから、1日亮子のわがままに付き合うことになった。」

「「…」」

「…えっ?!何どうしたの!?何その反応!?」

一時停止をしたみたいに固まる二人。俺の言葉を聞いてようやく動き出す。

「福ちゃん、そういうことなのかな~?」
「マツ、珍しく意見が合うな。同感だ。」

「なんなの??ねぇ!どういうこと!?」

するとずっと黙ってたこっしーが口を開いた。

「雄大ってさ、自分のことになると、とたんに回りが見えなくなるよね。」

ってなんだか意味深な言葉を残したのだった。




11月14日、日曜日。


むかえに行くと、亮子は玄関で待ってた。
びっくりしてる俺を引っ張るように亮子は進む。


「えっちょっと、屋良くんに挨拶」

「いいから。ともくんに言うと面倒だから言ってないし。」


「それの方がなんか…悪いことしてるみたいじゃない?」

「…だな。」


いつもの感じとは全然違う。膝丈のスカートに明るすぎる髪を隠すように被るニット帽。最後に極めつけのこのセリフ。これがなんという気持ちなのかわからないけど、俺はとっても調子が狂っていた。


付き合って。何て言ったわりには亮子はわがまま何て言わなくて今だってひとりで洋服を選んでる。よくあるどっちがいい~??ってされるって思ってたから、なんだか拍子抜けする。


「これなんてどう?」

あまりにもその場に浮いてる気がしたから、無理矢理亮子に勧める。

「…」

「え!?無視!?」

上から下までじっと見たあとぷいっと顔を背けた亮子。

「それさ、わざと?
そんな大人っぽいの見せてきて私が似合わないって言いたいの?
それか…ううんやっぱなんでもない。」


「…そんなことないって。
今日の服だってよく似合ってる、俺嫌いじゃないよ。」


「…
もういい。うるさい。」


それでも怒ったのか出ていってしまった亮子を追って俺も店を出る。

追い付いた先ではディスプレイされた商品に釘付けになる亮子がいた。



雄くんの行きたいとこ連れてって。

帰ろうかと思ったときにそんなことを言った。


「帰ろっか。」

寒そうにしている亮子を見て、声をかける。

「もうちょっといる。」

しょうがなく着ていたアウターをかけてあげる。

「えっ、いいよ。」

「いいから。かけとけ。」


ありがと。って小さな声が聞こえた気がした。




「今日はありがとう。」

「おう!」

あっそうだった。と、俺が渡そうとしたのと家の中から屋良くんが顔を出したのは同時だった。

「おかえり、亮子!
雄大、今日は悪かったな。」


「いえいえ、とんでもないっす。」

「…ちょっと待ってよ。どういうこと、なんでともくんが知ってるの。」

「え?だってこれ俺がお願いしたんだよ、亮子の誕生日に何がほしいって聞いてくれって頼んで。そしたら亮子雄大と買い物行きたいって言ったんだろ?」


どっちだよ。こんなペラペラ話すならあのとき自分で聞けばよかったのにと思いながら、聞いてた。



「バカ。」

「え?」

「バカバカバカバカ!」

「亮子?」

「やめてよ!そんな風に呼ぶの!
ごめんね、こんな兄貴に言われてしょうがなくそんな兄貴の妹に付き合ってやって。大事な日曜無駄にして。楽しくなかったでしょ?だって無理やり言われてやってたんだもんね。ごめんね、もう関わらないから。明日からも来なくていいよ、ひとりで行けるから。」


「えっ?ちょっ…何言ってんの?」

バイバイ、ごめんね。」


その後、兄貴って呼ばれたショックで放心状態だった屋良くんがようやく意識を取り戻したみたいで、「おい、亮子!」と追いかけて家に入っていった。何もできない俺はしばらくの間ただただ立ち尽くしていた。そのうち雨が降ってきてようやく動き出した体を引っ張って、よくわからない感情を抱え、髪の毛から雨粒を落としながら我が家の玄関に入る。



~~~~~


「~~~っ!バカっ!」

羽織らされた上着に気づいて、こんなのって投げようとしたのに。
投げれるわけなかった。手に取ったら苦しいくらいに大好きな人のものって感じさせられる匂い。


「亮子!!…亮子。」

兄貴の前だからとか自分の意思とは関係なく涙が出てくる。雄くんのジャケット抱きしめながらひたすら泣いた。