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音をたてて沼に落ちたド新規の日常(妄想)

番外編~辰巳くん①

「雄大。俺の亮子に変な虫ついたらどうなるかわかってんだろうな?」


中学に上がる屋良くんにこんなことを言われたのはもう10年も前のことらしい。

学ラン姿で言われたとき、俺は怖すぎて、「は、はい!」と声が上ずった覚えがある。


亮子とはいわゆる幼馴染みで、俺にいっつもついてくるやつだった。そのくせどんくさくて気づくといつも迷子になるようなやつ。

何度もついてくるな!と言った。けど、あいつはいつもついてきてそして突然姿を消す、本当に厄介なやつだった。屋良くんの妹でなきゃ絶対関わりたくないタイプだった。


でも、あの屋良くんの言いつけだ。守らなかったらどうなることか…

その日から俺は毎日亮子と通学した。亮子が中学に上がっても変わらなかった。俺は毎日荷台に亮子を乗せ自転車を漕いだ。



そしてこの頃ようやく屋良くんが言っていたことを理解したんだ。

「変な虫がついたらわかってんだろうな?」

亮子はまあまあ可愛かった。それに加えて男子が好みそうな天然でどんくさいタイプだった。

つまり、



めっちゃモテた。



「りょうこー、帰ん…ぞ。」

「あっ、」

「ってことで、ごめんなさい。」



「一緒にいた男誰だよ。」

夕焼け空の下、家に向かいながら後ろに向かって聞く。

「バスケ部の…誰だっけ?」

告白してきたやつの名前くらい覚えておけよ…

「でも興味ないんだもん、…。」


3年で進学先の高校を決める時、俺は迷わず地元の共学にした。
高校はさすがに屋良くんが女子高に通わすだろうなって思ったからこれで俺も晴れてこの役目から逃れられる!そう思ったのに…


俺の充実した高校生活は1年で終わった…


亮子は女子高の、入試に落ちた。で、結局俺と同じ高校。

…わざとだ。絶対わざと落ちたんだって思ったのは、高校に入ってきた亮子を見たとき。


「入学式とかまじだるいんだけど。」

見間違いだと思った。聞き間違いだと思った。
スカート丈は膝上10センチまで上げられ、耳にはもちろんピアス、そして髪はきれいな金色に染められ…


「なにしてんの?」

1年の教室前で声をかけることすら出来ないくらい固まってる俺を見て亮子はさらっと言ってきた。


「お前さ、なんでそんな変わったわけ?」

「…別に。」

「屋良くんはなんて?」

「…別に普通だよ。」


んなわけないだろ。あの妹大好きなあの人がこんなに変わった姿見て普通なわけない。

中学の時、亮子が屋良くんのこと兄貴って呼んだとき、あの人ショックで2日寝込んだんだからな。


「明日から8時に迎え行くから、ちゃんと準備しとけよ?」

「…うん。」






「辰巳、お前今日金髪美女と登校したらしいな~。校内その噂で持ちきりだぞ~。」

数学の堂本先生にそんなことを言われたのは昼食前の4限目のことで。つかさず後ろの席のマツが反応する。

「た、たつみ!?か、かのじょいたの!?」

なんでお前がそんな動揺してんだよ。とか思いながら

「なんや知らんかったんか~。どうやら1年らしいし、さっすが辰巳くん!打つ手が早いですね~。」

なんなんだこの人たちは。
俺にはプライバシーの権利もないわけ?

「違うって。あれは幼馴染みで、何て言うかその…俺がボディーガード…的な?」

結構マジで答えたのに結局笑い話にされて終わった。



とある昼休み、今日は母ちゃんの弁当なんだよな~と楽しみに開けると、あれ?なんで弁当2つ入ってるんだ…?

あいつが自転車のかごに弁当入れたとき俺のかばんに入っちゃったってことだな…

とにかくしょうがないから届けに行く。

「ごめん、俺1年の教室まで行ってくるから先食べててよ。」

そう言って教室出ようとしたのになぜかついてくる3人。

「なんで!?」

「辰巳の彼女、見たいじゃん」

いつもにこにこ顔の福ちゃんが目尻しわしわにしてにやにやしながら言った。



「亮子~?」

1年の教室で声をかけると教室中の視線を集める。

「亮子なら今いませんけど。」

金髪ロングの長身の子が声かけてきてくれた。金髪ってちょっと怖かったけど、もうなんか慣れたわ。

「もしかして亮子の友だち?…これ、亮子の忘れ物なんだけど、渡しといてくれない?」

ありがとうね。と声をかけ帰ろうとすると何やら様子がおかしい

「マツ?おいマツ、どうしたんだよ!」


「辰巳、俺今、雷が落雷した。」



「はぁ!?」




「ざーんねん、辰巳の彼女いなかったね~。でもあのコ友だち?まあまあ可愛かったよね~」

福ちゃんがそんなことを言いながら帰っていると、

「辰巳先輩!彼女いるって本当ですか??」
って後輩ちゃんが。

えっと、この子は誰だっけなぁ…自分でいうのもあれだけど、俺はなんでか後輩にモテる。おかげで今年はマネージャーいっぱい入ったって先輩に感謝された。

「いや、あれは」

「違うから。付き合ってないから。」

「…屋良さん。」



「だいたい見ればわかるでしょ。こんなのと付き合うタイプじゃないじゃん、辰巳先輩は。」

「亮子?」

「秋山から聞いた。お弁当ありがとう」

そう言って歩いていく亮子はなんだか知らない人みたいに遠かった。


「辰巳の彼女ってあの子なんだ。」

それまでずっと黙ってたこっしーが口を開いた。違うけど、たぶん辰巳の例の女の子=辰巳の彼女なんだろうなと思って、受け流す。

「あの子、結構有名人だよ。告白してくるやつ片っ端から振っていってるらしくって。もうすぐ3桁の大台行くらしいよ。」

「マジ…で?」
俺は開いた口が塞がらなかった。



帰り、いつも亮子は俺の部活が終わるまで待っていてくれる。その日、迎えに行くといなかった。教室に荷物があったからトイレかな~って思った。でも5分経っても帰ってこない。

その日たまたま日本代表戦があって早く帰りたかった俺は、亮子を探しに行った。


とりあえず暗くなった校舎内を歩く。すると少し明かりの漏れた教室があった。ちょっとだけ中を覗くと男が何人か見えた。早く帰れよーとか教師みたいなこと思いながら、通りすぎようとした、けど足が止まった。

「やだ。あり得ないから。死んでも付き合わないから。」

亮子?!って思うのと、教室の中が騒がしくなったのは同時で。
急いでドアまで行って開けると、今にも殴られそうな亮子がいた。



「お前がなに考えてんのかわかんねぇよ。」

あのあと、亮子はするっと男の間から抜け出し、帰ろと一言だけ言うとずんずん教室まで歩いていってしまった。


「探しに来てくれてありがとう。」

俺がそういうと一言だけそう言ってあとはなにも話さなかった。




そして、俺は思いきった決断をした。

「「ファンクラブ!?」」

「福ちゃん、マツ!声がでかいよ!」

「俺ひとりじゃあいつのこと守れない。かといって信頼できるやつもいない。でも守れなかったら、俺の命が危ない。」

「あいつに告白したやつに声かけて、あいつはまだ誰のものにもなる気はないからみんなで亮子のこと守ろうぜ!とか言ったらうまくできるだろう?」


「んでも、そんなうまく行くかな」

「ってことで、とりあえず会員50人は集めた!」

「早っ!」

「まだ会員ナンバー決めてないんだけど、もしみんなも入りたければ会員ナンバー1番あげるけど?」

「いやいいよ!」


そんな感じで俺は亮子のファンクラブ会長になった。その頃知ったんだけど、こっしーにもファンクラブがあるらしくって、しかも会長は生徒ではないらしいと聞き、この人は本当に謎だと思った。

この制度はマツや福ちゃんの予想に反し、うまくいった。俺が文化祭や体育祭など他校生が溢れる日には俺が一声、亮子には指一本触れさすなと言うと、男どもは行事よりもそっちに必死になってくれたし、何より俺の負担が減って俺も半年ぶりの青春を謳歌していた。



「辰巳先輩!今日もお疲れさまです!!」

そう言われ、女の子に囲まれるのはそう悪いものじゃない。
俺自身、女の子に優しいと思ってるし、何よりあのわがままなお嬢ちゃんに10年も付き合ってきたんだ、扱い方くらいわかってる。


「ありがとう!みんな気を付けて帰るんだよ。」

そう言うと、またまた嬉しい反応が返ってくる。


今日の練習試合の俺のシュート、なかなかイケてたよな~なんて思い出しながら亮子の教室まで行く。

「気持ち悪。あんなアイドルスマイル振りまいちゃって。」

窓からグラウンドを見たまま亮子が言う。

「いいだろ、俺も女の子にちやほやされたいお年頃なんですー!」

「…ばっかみたい。」

その日は帰るまでずっと不機嫌だった。



俺16歳、亮子15歳の秋。